最後の後継者
我が国では人口の減少と少子高齢化、核家族化が確実に進行し、特に地方では家に住む人が居なくなって廃屋になって過疎化に歯止めがかからないという事態が深刻な問題になっています。
子供が居ない、居ても離れたところに住んでいるなどの理由で先祖代々から伝わる家やお墓の最後の後継者になってしまったらどうすれば良いのでしょうか。
子孫長久の願い
今でも地方の旧家では親・子・孫の三世代或いはそれ以上の世代が一つの家や同じ敷地内に住むことで家業である農業や林業が引き継がれてきましたが、直接自然に働きかける一次産業としての農業や林業、畜産業などは休みが無くて過酷な労働で働きづくめ、しかも収入が少ないことなどから、若い人に敬遠され、後継者が居なくなるという深刻な問題が起こっています。
一次産業の後継者が居なければ我が国の生産能力は落ちるばかりで、やがては国際的な競争力も失います。
地方の旧家では代々引き継いできた家業に誇りを持ち、家族皆でお互いを支え合い、喜びも悲しみも共にして、古き良き時代の和やかな理想の家族の姿があったのです。
そこでは親が子を思い、子の成長を喜び、更には孫の誕生を祝い、成長を喜ぶという極めてありふれた幸せのために皆が一丸となって努力し、皆の繁栄と幸せを願うことが「家」と「家族」という制度の最大の特徴なのです。
家の中から老若男女の笑い声が聞こえてくることが幸せの証なのです。
子孫が繁栄するようにと神仏や先祖に願い、今生きていることを感謝することで日々を送ってきたのが私達の先祖なのです。
諸行無常
釈迦はこの世で生きることが苦しみであるとして、その苦しみから逃れるためのただ一つの方法として仏になる道を選び、王子としての身分も家族も捨てて出家して難行苦行の果てに悟りを得ることが出来ましたが、その悟りの中に「諸行無常」があるのです。
諸行無常とはこの世の物は全て移ろいゆくものであり、同じ形を保つことなく生成されては滅することを繰り返しているという真実のことです。
分かりやすく言えば「永遠に続くものは何もない」ということですが、私達の周りを見ても永遠なる物が存在しないことに気が付くはずです。
生まれてから46億年の歳月が経過していると言われている私達が住む地球でさえも永遠ではなくて必ず終わりがあり、時々刻々と形を変えて、決して同じ場所に居るのではなくて、常に動き続けているのです。
諸行無常の真実からすれば私達の家や家族など必ず終わりが来るのであって、子孫長久を願ったところで空しいばかりであることに気が付きます。
そういう意味では我が国で確実に増えている後継者の居ない家やお墓にしても、私達が決して逆らうことの出来ない大きな力が働いているのです。
そういった大きな力が働いていると感じたら、素直にその流れに身を任すことです。
片付け
私達は子供の頃から「物を散らかしては片付ける」という実に単純な作業をどれだけ繰り返してきたことでしょうか。
私達の社会は経済社会ですから、働いたお金で欲しい物を買い、並べては散らかしを繰り返し、不要になったら捨ててしまうのですが、欲望というものは不思議な物で、買って満足したと思ったらまた次の物が欲しくなるという欲望地獄にいつの間にか堕ちてしまうのです。
誰もが必ず来るもの、避けられないものは「死」であり、それはいつ来るか分かりませんが、必ずやってきます。
死後の片付けは家族の人や後継者がするものですが、家族の人が片付けてくれるからと言って、散らかし放題で死んでいくのは迷惑行為です。
後継者が居ても居なくても自分が散らかした物は自分で片付けることが大切なことです。
最後の後継者になってしまったら
もしあなたが最後の後継者になってしまったら、自分が居なくなってもなるべく誰にも迷惑が掛からないように家やお墓の片付けをしておくことが大切です。
特にご先祖様のお墓は放っておけば無縁墓になってしまい、盆や彼岸になっても誰も参ってくることのない墓になり、草木が生えて周りのお墓に迷惑になったり無縁仏として処分されてご先祖様が大変に悲しむ結果になってしまいます。
最後の後継者になった者には何の罪もありませんが、この世で散らかし放題で生きた結果として先祖のお墓も放ったらかしであの世に行っても、決して歓迎されることなく、後悔の念のみが残ることになります。
もしあなたが最後の後継者になったとしても、御先祖様は必ずあなたのことを応援して下さっているのですから、感謝の気持ちを手向けつつ、御先祖様が子孫繁栄を願って建立したお墓に対しては、自分の代で終わる旨と詫びの言葉を述べることで、必ず納得して頂き、最後の最後まで応援して下さることに繋がるのです。
御先祖様にありがとうの気持ちで墓じまい、最後のお片付けは気持ちよく、そして綺麗にするのが地球で暮らす私達の務めです。
お借りしたものは借りた時よりも綺麗にして返しましょう。
お借りしたものは感謝の気持ちを添えてお返ししましょう。